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出版業界の危機と社会構造

案の定、書評をはじめとするマスコミには黙殺されてるようなので

このブログでせめてオススメしておく。

出版業界の危機と社会構造 Book 出版業界の危機と社会構造

著者:小田 光雄
販売元:論創社
Amazon.co.jpで詳細を確認する

ひとことコメント:
かなりリアル。本の業界の危機をよく分析されている。

おすすめポイント:
危機の本質がなんだったのかがよくわかる。

20世紀末に発表された『出版社と書店はいかにして消えていくか』で出版業界にメガトン級の衝撃を与えた小田光雄氏が書いた「出版状況論三部作」の完結編が発売された。

この本では、2001年~2007年9月までの出版業界、特に書店、取次などの流通側の過酷な状況と(自己破産、民事再生とか)と今後の出版業界を左右する

TSUTAYA対GEO戦争を中心にブックオフ、アマゾンの異業種書店をまじえながら
「国内出版界の敗戦」についての全容を明らかにしている。

書いていることの大半は知るひとぞ知る事実なんだけど、
部分論ではなく他業種を含むこの敗因の全体像をおさえている労作。

特に、今後の国内出版業界を考える上で一番重要だと思われる、
TSUTAYAとGEOの参入経緯と狙いまできちんと分析(たぶん取次内部のリークだと思うけど)しているところはさすがだなと思う。
よくもまぁ外部のひとなのにここまで分析したなぁという印象。

2001年に再販制の維持を公取が発表したことが、今に至るまでの出版社の倒産やら中小書店の廃業ラッシュの決定打になったことは業界ではある意味タブーだったと思う。

一言でいうと、講談社やら岩波やらの大手出版社とか、紀伊国屋やら丸善といった老舗チェーンの倒産を防ぐために多くの版元と中小書店が犠牲になったっちゅうこと。
だから本来ならばとっくにつぶれておかしくない、

もしくは不動産屋に鞍替えするべきだった老舗企業のおえらいさんが、出版文化とか出版の未来とかぬかしてるのを聞くと不快感を感じる。


しかし、本書でちょっと事実と違うなと思うのは、今世紀の2大書店チェーンになりそうなTSUTAYAとGEOがやや悪者にされてるけど、この2社が本の販売に力をいれなかったら日本の出版界そのものがつぶれてたっちゅう現実の記述が抜けてしまってること。
フランチャイズシステムやサプライチェーンマネジメントが悪いわけではない。

わかりやすい善悪二元論ではここ十数年でおきたことの説明はつかん。
問題は、SV手法やMD販売やら海外へのバイイングやら外部業界の成長企業の手法を取り入れず、システム屋とかの言いなりになって器だけ作ったもののそれをうまく活用できる人材を出版界内部で育てなかったことなんじゃないかな。

この本は2007年9月の記述で終わってるけれど、本当にやばいのは業界としての巨額なシステム投資の本格回収がはじまるこれから。

小田氏は、amazonとかTSUTAYAとか業界外部の企業のひとしか1作目に書かれていたリアルを活用したり、真剣に受け止めたりしなかったんだとぼやいていた。

しかし当時、業界の内部のひとでも危機感を現場で感じて本書を読んでたひとはたくさんいたし、真剣にこのままでは未来がないと議論をしていた。

再販制堅持を求めてナベツネら新聞界のひととともに公取に工作して墓穴を掘ったのは、かつて出版バブルを経験し、現状の仕組みと制度のままで逃げ切ろうと思ってた上の世代のひとたち。

そして、再販制堅持が決まったときに苦い敗北と無力感を感じたのは自分らの世代だった。
あの年から出版社・本屋問わず本の世界から希望を失った若手社員がどどっと流出しはじめたとき、上の世代のひとたちはその理由をよくわかっていなかった。

あれからかなりたって、やっと彼らもきっとあのときが分岐点だったのだなと本書で気づくんだろう。

本の世界の人と話していていまいち危機感を共有できないな~と感じてたのは
分岐点がいつだったのかを理解していないから。

本書の出版が、ネットやらケータイが出版不況の原因とかいう不毛な議論が終わるきっかけになればうれしい。


ただし、ネットを通じて出版流通がボーダーレスになっていきつつある今後、 本の世界に残るひとたちがなにを議論してどうすべきかは本書にはまだ書かれていない。

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