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どすこい出版流通 ~熱き出版人の遺書~

どすこい 出版流通

著者:田中 達治

本の世界を目指すひとのための新しいバイブルであり、本の世界の原点を失わないための警句の書でもある。

どすこい 出版流通

本書は、出版業界のインフラ整備に尽力しつつ、一度倒産した筑摩書房を立て直した、前取締役営業局長の故田中達治氏の遺作コラム集。

内容は、本人が同社の書店向け新刊案内に1999年〜2007年まで掲載していた業界よもやまエッセイ的な連載をまとめたもの。

田中氏が亡くなった後、その凄い仕事ぶりと遺志を継ぐ形で、書店、取次、出版社……出版流通に携わるすべての人のテキストにすべく版元ドットコム有志の協力によりポット出版から出版された1冊だそうな。

他のブロガーさんも書いているようだけど、腰巻にもある一文

『私は「良書」という言葉が、いや、ことあるごとに「良書」を口にする出版人がキライだ。……』

にひかれて購入し、仕事中に一気に読んでしまった。

筑摩書房というと、古き良き人文書系の「良書編集」出版社と思われがちだけど、じっさいに同社を支えていたのは、ロジカルかつ広い視野をもった近代的営業マンだった。

書店員を含む業界人向けに書かれた内容のため、業界裏話や業界用語が満載だけど、田中さんは本書で、沈みゆく本の業界の中で出版人としての個人ができることがなんなのかを軽妙な文体の中で、時に熱く、時に鋭い毒舌で読者に訴えかける。

本の仕事をしている一読者として感情移入できたし、出版業界のEDIやらSAやら実際に自分も直接的・間接的にタッチしたインフラ構築プロジェクトやら「逆送」「配本ランク」などの独特の商慣習課題についての所感も頻出していて、その主張に納得しつつ激しい共感も覚えた。

『良書を売り損じたのは、本屋や国民や政治のせいではなく私がヘタなだけである』

同じく、腰巻にあったこのコメントも、長年チャレンジしつづけた人だけが実感できるせりふだろう。

最後に、本書192ページ目の著者メッセージには思わず涙がこぼれた。

「病は誰にでも等しく訪れるものです。私は思いもよらず早くその日を迎えてしまいましたが、悲観はしておりません。『明日』」をイメージすることが出来る限り、病に向かい合い、治療に取り組む覚悟です。またいずれそれが及ばなくなる日が訪れても、静かに流れるようにすべてを受容したい、そのような自分でありたいと念じております。

 出版業界はますます厳しい未来に直面しています。しかしながら、メディアとしての出版は他のメディアとして比較し、深く、重く、誠実に伝える力を持っています。その 力を最大に発揮するシステムをみなさんで築き上げてください。私はもとより、無数の読者がみなさんを応援しています。頑張ってください。

地味で目立たず、しかし本の世界が存続するためには一番重要なミッションであることはわかりつつも、出版のインフラ構築に本気で関わる人の多くが、何度も心が折れる経験をしてきたはず。

リアル・ネットや川下・川上問わず、既得権益組織の抵抗とプレッシャー、個人の良心と虚栄心との板挟みにあい、本の世界が好きな人であればあるほど、この世界を離れたいと思うこともしばし。

絶版がなく、読みたい本を読みたい人にふつうに届ける仕組みを作るために一生を捧げた出版人の最後のメッセージは、一時的に心折れそうな読者にとって最高のバイブルになりそう。

メジャー作家やタレント、仕掛けという名の小さなトレンドに頼った一過性のぷちミリオンセラー狙いにしかアンテナを張れないミーハー編集者のみなさんも、読めば出版の真髄がわかるはず。

40年かけて本の世界の仕組みづくりにチャレンジしつづけた熱き先達から、その遺志を継ぐものたちへのギフトともいうべき「良書」だなと。

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